佐野眞一『遠い「山びこ」』 

佐野眞一『遠い「山びこ」――無着成恭と教え子たちの四十年』を読んだ。公刊されている佐野の著作はだいたい読んでいるが、佐野の“出世作”でもある、この『遠い「山びこ」』はなぜかあとまわしになっていた。このたび、新潮文庫になったのを契機に、一気に読んだ。


『山びこ学校』卒業生たちの生活は一様につましかった。その後の取材結果とあわせても、四十三人の中で、土地や株に手を出した者は一人としていなかった。(p.182)


[『山びこ学校』卒業生たちは]経済的には必ずしも豊かとはいえなかったが、精神的にぎすぎすしたところは少しもなく、一様に心のゆとりをもって生きているように感じられた。(p.187)


僕はこの本を読みながら、不覚にも何度も涙してしまった。人が生きるとはどういう意味があるのか、そしてそのことと社会が変わるということとの間に何があるのか。そうした少々青臭い問いが、何度も体をふるわせた。