民衆演劇

東京で行われた国際フォーラム「未来をつくる教育のための演劇ワークショップ」(7月17日、明治学院大学)と、それに先立つ「民衆演劇の手法で考えるESDアジア太平洋交流ワークショップ(東京)」(7月16日、立教大学)に参加した。


持続可能な開発のための教育の10年(ESD)の活動に民衆演劇の手法を取り入れようというワークショップとフォーラムで、僕は、ESDも民衆演劇もそれほど縁がないのだけれど、仕掛け人の嵯峨創平さん(IDEC:環境文化のための対話研究所)に誘われて参加することにした。


立教大学でのワークショップは、民衆演劇で世界をリードするフィリピンのPETAから来たベン・カバンゴンさんとマリチュウ・ベラルミノさんのファシリテーションがすばらしかった。私たちの社会の現状と未来をテーマに、まず体をほぐすことから始め、考える、議論する、体を動かす、何かを作る、発表する、を交互に繰り返し、全体として深まっていく。グループで、テーマに従った静止劇(タブロー、って言うんだそうだ)を3つまず作り、次にそれをもとに短い劇を作る。


そういえば、僕は高校時代(それに大学1年のときも)に演劇をやっていたのだった。そんなことはすっかり忘れていたが、当時の大根役者は今でもやはり大根役者だった。でも幸いなことに民衆演劇では大根役者かどうかは関係ない。


明治学院でのフォーラム(シンポジウム)では、僕は基調講演の役割を与えてもらった。嵯峨さんからその話をもらったとき、困ったなあ、と思ったが、嵯峨さんのサジェスチョンもあって、「個別性と公共性をつなぐ『物語化』という視点」という題の話をした。ソロモン諸島の事例から、人々の生活が単純な経済や自然資源といったものに依存しているのではなく、さまざまな社会的なものを組み合わせて成り立っていること、その社会的なものの多くは地域固有のものであることをまず示し、その個別的なもの・地域固有なものから「公共性」や「公正」を引き出す手法を、今度は日本の各地の市民活動やまちづくりの実践から引き出してみよう、そうすると、そこには「物語化」ということが浮かび上がってくるのではないか、とそんな話をした。


「ESD」も「民衆演劇」も直接触れたわけではないので、シンポジウムで浮いてしまわないかと危惧したが、あにはからんや、他のみなさんの報告や発言と大いに共鳴した(と、少なくとも僕は感じた)。PETAの2人は、PETAの活動の基本原則として「文化こそ人々の生活の基礎である」ことを強調した。花崎攝さん(演劇ワークショップ・ファシリテ-ター)は、大きな物語が個人の思いを踏みにじる危険について語った。


PETAの2人が、informance(information + performance)というPETAの活動(情報をperformanceによって伝え、コミュニケートする)について語り、民衆演劇の博士論文を日本大学芸術学部で書いた黄愛明さん(マレーシア出身)がアメリカのtransformance(transformation[社会を変えること] + performance)という言葉を紹介してくれた。僕は「調査」もまた同じだな、と思い、researformance(research + performance)という言葉を思いついた。パフォーマンス、演劇としての調査。


国際フォーラム「未来をつくる教育のための演劇ワークショップ」


10:30~10:45 開会、主催者挨拶、趣旨説明(嵯峨 創平)

10:45~11:30 基調講演 1

     「アジア太平洋地域におけるESDの取り組み状況と課題」

     佐藤 真久(武蔵工業大学 環境情報学部 専任講師/(財)ユネスコ・アジア文化センターESDコンサルタントIUCN-UNESCOアジア太平洋地域DESD評価専門員)

11:30~12:15 基調講演 2

     「個別性と公共性をつなぐ「物語化」という視点」

      宮内 泰介(北海道大学 大学院文学研究科 助教授/さっぽろ自由学校「遊」共同代表)

12:15~12:30 質疑応答

12:30~13:30 昼休み

13:30~14:20 特別講演

 「民衆演劇の手法による持続可能な社会づくりへの取り組み~PETAの実践から」

      ベン・カバンゴン(PETA 事務局長)

      マリチュウ・ベラルミノ(PETA 子供演劇プログラム責任者)

14:20~14:40 報告 1

     「タイ・マカンポンシアターの民衆演劇の活動」

     野村 真弓(マカンポンシアター・インターン)

14:40~15:00 報告 2 

     「日本における民衆演劇の活動~水俣での取り組みから」

     花崎  攝(演劇ワークショップ・ファシリテ-ター)

15:20~17:30 シンポジウム

コーディネーター 木下  勇(千葉大学 園芸学部 教授/子どもの参画情報センター代表)

パネラー:

ベン・カバンゴン/マリチュウ・ベラルミノ/黄  愛明(芸術学博士、女優・演出家)

/佐藤 真久/宮内 泰介/花崎  攝/淺川 和也(東海学園大学 人文学部 助教授)/菊地 敬嗣(PETAサマーワークショップ実行委員会)