【13】琵琶湖を知りつくした研究者

4年ほど前、知人の女性研究者に連れられて、琵琶湖周辺を歩いたことがある。


本庄という琵琶湖東岸の集落では、集落中に張りめぐらされた水路を案内してもらった。一見しただけではよく分からないのだが、この集落には3つの系統の水路があって、それぞれ自主管理されている。集落の責任者が水門の開け閉めを担当し、年に何回かの泥さらいは全員で行う。そうしたことを長く続けてきた。そんなことを、知人の研究者に教えてもらいながら、僕は歩いた。


知内(ちない)という古い集落の宿では、自治会の人の案内で、集落の文書が眠る小さな倉庫を見せてもらった。250年の間、集落の人たちが記録してきた文書がぎっしり置かれている。村の文書がこんなふうに村人たちによってちゃんと保管されているのを僕は初めて見た。250年の間、ほぼ毎日、集落の長は、村の日記を書き続けた。知人の研究者たちは、それを掘り起こし、村の人びとが長い歴史の間に直面したさまざまな問題を解き明かそうとしている。


びっくりするのは、琵琶湖周辺のこうした集落を、その研究者はほとんど回っていることだ。あそこの集落はどう、あそこの誰はどう、と実によく知っている。一緒に回っている間にも、彼女はいろいろな人を訪れ、その皆が、彼女を親しげに迎えていた。


ただ訪れて話を聞くだけでなく、住民たちの活動を応援し、鼓舞してきた。長く琵琶湖博物館という博物館の学芸員だった彼女は、琵琶湖周辺の住民たちといっしょにホタル調査にたずさわったこともあった。調査する中で、水が汚れているからいるはずないと思っていたホタルが、実は案外いることを、住民たち自身が発見していった。きれいな水より少し汚れた水をホタルは好むこともわかった。地域の宝を発見することで、地域に愛着を持つ。そうした発見とまちづくり活動を、彼女は住民とともに楽しんだ(この調査は『みんなでホタルダス――琵琶湖地域のホタルと身近な水環境調査』として出版されている)。住民たち自身が調査することの意義を彼女は実践的に証明していった。


この知人の研究者の名前は、嘉田由紀子さん。先日、彼女は滋賀県知事になった。