【17】村の識字学校

ソロモン諸島マライタ島のSさん(女性。推定三五歳)は、以前日本からの友人を受け入れてもらったこともあり、僕が村で親しくしている一人だ。小学校を出たあと村にいたが、二〇代のころに町へ出てお手伝いさんとして働いた。しかし、結婚して子供が生まれると村に戻ってきた。数年前に夫と別れ、今は畑で働きながら、子どもと暮らす日々だ。


そのSさんが、昨年から識字学校を始めた、と聞いて、僕は少し驚いた。村の中で特別学歴が高い女性でもないし、人前で積極的に話すようなタイプでもない。Sさんは、二〇〇三年、近くの村でNGOが開いた識字教育のワークショップに参加し、それをきっかけに村で識字学校を開いた。


周辺の十あまりの村々から女性たちが集まってくる。年配の女性だけでなく、若い女性も多い。女性たちに混じって数名の男性もいる。彼ら/彼女らは、程度の差はあるものの、非識字である。集まって来た女性たちの中には、僕の知り合いも何人かいて、僕は彼女たちが非識字であることをうかつにも知らなかった。ソロモン諸島の識字率は六二%(男性六九%、女性五六%)。


もともと文字を書く文化ではなかった。しかもソロモン諸島には百ほどの言語がある。現在ソロモン諸島で「識字」とは、英語や共通語のピジン・イングリッシュについての読み書きができるかどうか、ということを指している。


村の識字学校は、週二回の午前に開かれている。先生はSさんを含めて四人(うち二人は若い女性)。現在七〇名ほどの受講者がいる。八時始業のところ、実際に受講者たちが集まったのが九時近くというのは、まあソロモン・タイムだからしょうがない。授業開始の前に「識字の歌」というのをみんなで合唱する。


「識字は私たちを助ける/識字は私たちを強くする/識字は私たちを支える/たとえ学校に行っていなくても/たとえ読み書きができなくても/識字で私たちの技能は発展する/識字があってはじめて発展がある」(一部省略)


そしてレベル別に四つの教室に分かれて授業が始まった。机も椅子もない。教室になっているのは教会の簡易なゲストハウスで、そこにみんな地べたに座ってノートとペンのみで勉強している。日本語の五十音にあたるような表を作ってそれをみんなで「a-e-i-o-u、ka-keーki-ko-ku」と読んでいったり、「ka」のつく言葉をいくつか挙げてみましょう、ということをやったり、と素朴だがそれなりに工夫された授業になっている。読み書きだけでなく、簡単な算数も教えている。Sさんも、決して教え慣れているとは言えないものの、一生懸命にやっている。


教え方云々より、僕は、こうやって女性たちが集まって、勉強し、自信をつけていくことの方が大事なのではないか、と考えた。幸いに、夫たちの理解もあるらしい。「識字の歌」がその通りになることを僕は願っている。