無作為による市民参加の可能性 

昨日(2007年12月22日)、北海道大学で「公開シンポジウム 循環型社会と市民参加」(主催:北海道大学大学院文学研究科・特色ある研究プロジェクト「環境と公正の応用人文学」)を開き、名古屋で「なごや循環型社会・しみん提案会議」という大規模な市民参加事業を行った柳下正治さん(上智大学)に基調講演をしていただいた。


柳下さんたちが行った「なごや循環型社会・しみん提案会議」がこれまでの市民参加と一線を画すのは、それが、「ステークホルダー会議」と「市民会議」を組み合わせて行う「ハイブリッド型会議」を日本で初めて取り入れたこと。ステークホルダー会議は、行政、事業者、NPOなどの利害関係者(ステークホルダー)が、問題点や論点をとにかく出す会議。そしてそれを受けて「一般市民」による「市民会議」が話し合って提言を作る。その「市民会議」の参加者は、無作為で選び出された市民による、というところが画期的なところだ。


柳下さんの基調講演によると、「無作為」とは言っても、無作為で選んだ人にまずアンケートを出し、その中から、「会議に参加してもよい」と表明があった人を抽出し、その中からさらに人数が絞られた、という。つまり「無作為」と「公募」のハイブリッドなわけだ。


これに対し、同じシンポジウムで大沼進さん(北海道大学.社会心理学)が紹介したドイツ北西部の町Lengerichにおける中心地再興計画事業では、もっと「無作為」が徹底している。3万人の町で、500人の市内住民が無作為抽出され、そのうち110人が実際に参加して議論を重ねた。110人は、Planungszelle(英語ではplanning cells:計画細胞)と呼ばれる小グループに分かれ、4日間ほどの議論がなされる。職場には依頼状が出され、日当が支給される。(日本でこれから行われる裁判員制度に似ている)


大沼さんの報告は、この市民参加手法について、参加していない一般の市民がどう評価しているのかを質問紙調査に基づいて解明した、詳細で画期的な報告だった。大沼さんの結論は、結果(中身)が評価され、手続きが公正であったことが、あわせて社会的受容をもたらしている、手続きが公正であるという評価は、この手法が「代表性、倫理性、情報開示」という3点を満たしているところからなされている、というものだった。


「無作為」、あるいは「ハイブリッド」という手法に課題がないわけではない。「ステークホルダー」と「無作為の対象となるべき一般市民」という2分類の真ん中に、かかわりの濃淡のある市民がいるのではないか。無作為で選ばれた市民による議論が、単なる言葉の上の議論でなく、表に出にくい人びとの暗黙知や生活実態をどう俎上に乗せることができるか。後者については、フィールドワークや聞き取りなどを、手法として組み合わせることによっていくらかクリアされるかもしれない。


—————————————————

公開シンポジウム 循環型社会と市民参加


日時 12月22日(土) 13:00~16:00

場所 北海道大学学術交流会館 一階 小講堂


基調講演 柳下正治(上智大学大学院地球環境学研究科 教授)

「市民協働型の政策提案―名古屋における試み:市民参加による循環型社会づくり―」

コメント 吉田文和(北海道大学公共政策学連携研究部 教授)


討論 「循環型社会づくりのためになぜ市民参加が必要か」

大沼進 (北海道大学文学研究科 准教授) 「政策受容に及ぼす公正感の効果:ドイツの事例調査」

蔵田伸雄(北海道大学文学研究科 准教授) 「地域環境・合意形成・民主的意思決定」


コメント 宮内泰介(北海道大学文学研究科 准教授)

司会 石原孝二(北海道大学文学研究科 准教授)/祖田亮次(北海道大学文学研究科 准教授) 


主催 北海道大学大学院文学研究科・特色ある研究プロジェクト「環境と公正の応用人文学」

—————————————————