エスカレータで左に寄るな

「イギリスのエスカレータでは人びとはこんなふうに左によって急ぐ人に道を空けるのです」。そんな写真を見たのはいつだったか。たぶん20年以上前だったような。僕はアホだったから、その写真を見て、イギリス人はさすがだなあ、などと思った。


同じ事態が、日本でもやってきた。それは10年くらい前からだったか。多くの人はこれを「マナー」と考え、せっせと実行した。そして現在、マナーという意識はほとんどなく、何か規則であるかのように左に寄っている(関西では右に)。


おかげで、少し混むエスカレータでは、右が空いているにもかかわらず、その前に長い列が延びることになった。“間違って”脇から入って右に立とうものなら、左に寄るか(でも左列は詰まっているから寄れない)、しかたなく歩くしかない。歩くのが難しいからエスカレータに乗ったご老人が、うまく左に立てないで右に立ち、後ろからせかされてしんどそうに歩くという姿を何度も目撃した。


おかしい。エスカレータにはほぼ必ず(小さくではあるが)「エスカレータでは危険ですので歩かないでください」と書かれている。「歩くな」という上からの規則を盾にとるつもりはないが、この場合はやはり「歩くな」の方が正しい。


歩くなら隣の階段を利用すればよいのである。エスカレータを歩いたとして、どれだけの時間が節約できるか。せいぜい数秒か数十秒である。


国民的大運動をする気はないが、エスカレータでは左に寄るな、そう訴えたい。


(ちなみに上のような考えのもと、ときどき、右に立ってわざと動かないということをやってみる。しかし、これはなかなか勇気がいる。2回に1回くらいの割合で、後ろからの無言の圧力に勝てず歩いてしまう。ちょっとした敗北気分。個人の努力だけでははやり無理だ。少なくとも「左に寄らない」という考え方もあるんだということが世間で認知されないと)