【26】韓国の「村林」

何年かぶりの韓国。知人に誘われて、ソウルで開かれた国際森林研究機関連合(IUFRO)という機関の会議に出席した。会議のタイトルは「アジアにおける森林にかかわる伝統的知識と文化に関する国際会議」。中国、韓国からの参加者を中心に、伝統的な森林管理について知識を共有して政策提言に結びつけようというものだ。


僕はこのコラムでも何度か紹介している宮城県の事例を報告した。住民が地域の自然環境とさまざまな関係を結んでいて、それが村の地域組織と密接に結びついている、という話だ。そんな話が中国や韓国の話とつながるのかどうかよくわからなかいまま報告に臨んだのだが、あにはからんや、話はとってもつながった。


韓国からの参加者は「マウルソップ」というものについて報告した。マウルは村。ソップは林。つまり「村林」である。韓国の多くの村にあるこの「村林」は、宗教的な意味合いと同時に、生態学的な意味合いがあることが報告された。一方、中国の参加者は「風水(フンシン)林」というものの報告をした。「風水林」というのは、やはり村の中にある林で、生態学的な意味合いもさることながら、村人に福をもたらすという信じられているらしい。大躍進時代にかなり伐採されてしまったが地域によって残っている。林学関係者たちが、中国からの参加者も含めて、「宗教」「精神的なもの」を協調するのはおもしろかった。


会議のあとのフィールドトリップでは、ソウルの南方にあるイチョン市ソンマル村という村を訪れた。村は、山際の谷あいの土地に広がっており、三方を森に囲まれている。そして、入り口に当たるところにマウルソップ(村林)が作られていて、結局、村は四方を森で囲われている形になっている。


ここを継続的に調べているソウル大学の大学院生が説明に立った。住民からの聞き取りと科学的な調査をもとに、この村林の意義が多岐にわたることを説明してくれた。防風の機能、村の中の田んぼの温度を調整する機能、田畑の肥料を供給する機能、などなど。村人たちは、この村林があると「落ち着く」と言うという。文化的な機能だ。おもしろいのは、村林にはたいていドングリの木が植わっていて、春に雨が少ないと米の収穫量が下がるかわりに、ドングリの実がたくさん採れ、それが救荒作物の意味をもつということだった。


いろいろ聞いていると、どうも東アジアにおける地域の自然には共通点が多い(韓国の農村地域の景観は日本のそれにきわめて似ていた)。西洋由来の「自然保護」でなく、東アジアの「自然」を語り合う場がもっとあってもよいのではないか。そんなことを思った。