【30】生徒たちの聞き書き講座

中学生・高校生・大学生が組になってかつお節職人だった人の話を聞き、それを文章にまとめる。そんな試みが静岡県御前崎市で開かれた。主催したのは地元のNPO法人手火山(ふりがな=てびやま)。御前崎に生まれて、遠洋漁業に乗ったり、インドネシアでかつお節製造の仕事に携わったCさんが立ち上げた地域活性化のためのNPOだ(ゆうひろば○月号参照)。手火山とはかつお節の伝統的な焙乾方法。


Cさんとインドネシアで知り合っていた僕ら(藤林泰(埼玉大学)、赤嶺淳(名古屋市立大学)と僕、という三人のかつお節研究仲間)は、Cさんの地域への思いにほだされ、何かお手伝いできないかと「聞き書き講座」を企画提案した。地元の高校二校と中学一校が参加してくれることになった。それに名古屋市立大学、東海大学の大学生が加わり、総勢三十名で聞き書き講座が開かれた。Cさんが、カツオ漁やかつお節に携わった地元のお年寄り(上は九十二歳)に呼びかけてくれ、十三名が語り手になってくれた。カツオ・マグロの遠洋漁業にたずわってきた人、地元でかつお節工場をやってきた人、かつお節職人として九州から宮城まで渡り歩いていた人、それに、地元で「駄賃かつぎ」と呼ばれるカツオの運び屋をやっていた女性たちが語り手だ。


中学生、高校生、大学生でグループを作り、それぞれ、質問項目を考える。それをもとに九十分程度の聞き取りを行う。おじいちゃん、おばあちゃんたちは、孫やひ孫にあたるような生徒・学生たちとの話に、初め少し緊張していたが、すぐにうち解けて、いろいろ話してくれた。


ICレコーダに録音したものを各グループ内で分担し、文字に起こす。それを大学生がパソコンで入力する。それをプリンタで打ち出し、出てきた語りの文を、時代や項目ごと整理し直して、小見出しを付け、文章もそれらしく直し、聞き書きのできあがり。質問作成からまる三日かけて、この作業を行った。


中学生や高校生は、なにやら怪しげなイベントに、最初、何をどうやるのか、いったい聞き書きとは何なのか、よくわからないまま参加したが、やっているうちに面白くなったようで、最後には「またこういう機会があったら教えてください」という始末。大学生たちは、いいお姉さん、お兄さんぶりを発揮してくれた。


実は企画した僕ら自身、こういう試みがうまく行くのか不安をかかえてスタートしたのだが、予想以上にうまく行った。正直、びっくりだ。


そして最後に発表会。語り手のおじいちゃん、おばあちゃんたちは、自分たちの語った話が中学生や高校生から発表されるのを見て、とっても満足そう。なんだか僕らも、あったかい気持ちになった。