【35】聞き取りからのまちづくり――南幌町の試み

この4月から、僕のゼミと南幌町の協働事業が始まった。


南幌町では現在町の総合計画と社会教育中期推進計画の策定作業が進行中。その計画を作っていくために、聞き取り調査をしよう、ということになった。


通常、こうした計画づくりでは、3つのやり方がある。一つは役場が勝手に作ってしまうやり方、一つはアンケート調査をして住民の意見を吸収しながらやるやり方、そしてもう一つは住民参加で計画を作るやり方。アンケート調査は、よほど周到にやらないと、本当の意味で住民の意見を集約することは難しい。住民参加はもちろん悪くないが、たとえば公募で選ばれた10人が議論して作っていく場合、やはり幅広いニーズを拾うのはなかなか難しい。


そこで住民参加型の聞き取り調査の出番である。住民自身が住民に対する聞き取り調査をし、その結果をもとに議論していく。そういうプロセスを作れないか。実は日本広しと言えども、聞き取り調査を軸にした計画づくりの前例はほとんどない。僕は南幌町の役場や社会教育審議会の人たちと話をしながら、その道を模索していった。


僕らの社会実験は、まず、ゼミ側では南幌の歴史をじっくり勉強し、一方、南幌側では社会教育審議会委員のみなさんとワークショップを開くことから始まった。どんな聞きとりをするか、南幌町側と学生側の双方で並行して質問事項を考えていった。


そして6~7月に、社会教育審議会委員やまちづくりグループの人たちと学生とが一緒になって、中高生を含む総勢50名の住民への聞き取り調査を敢行した。どんな生活をしてきたのか、どんなことを考えながら生活しているのか、南幌町がどんな町になればよいと思っているか、などなど、さまざまに聞いていく。単に質問して答を得るというのではなく、そこでいろいろ意見を交わしながら聞き取りは行われた。学生も交えた住民同士の対話こそ、この社会実験の肝である。


当たり前だが、町にはいろいろな人が住んでいる。暮らしぶりや町のあり方につながる本当に多様な話が出てきた。その一つ一つが僕らは大事だと考えた。あまりに多様すぎて途方にくれそうにもなったが、まずは、一人ひとりの聞き取りデータを20~30の短い文章にまとめた(これは学生たちの仕事)。そして、次にそれを一枚一枚のカードにしてみた。千枚を超えるカードができた。


さて――。この千枚のカードを使ってワークショップをしようと思うのだが、どうするか。単にカードを整理するのではなく、一枚一枚のカードに込められた住民の思いを大事にするにはどうすればよいだろうか。2度ほどゼミで実験し、さらに、社会教育審議会委員のみなさんとプレ・ワークショップを行って、本番の「まちづくりワークショップ」に臨んだ。


8月29日に開かれたまちづくりワークショップには、これまでこのプロセスに参加してくれた住民や学生のほか、町議会議員、各種委員、高校生(高校生がけっこう活躍した!)、そして聞き取りの対象者だった人たちなど総勢六三名が集まった。数人のグループに分かれ、まず各自に割り当てられた20枚程度のカード(聞き取りデータ)を読む。そして、印象に残ったカードを何枚か選び、一枚ずつ語りながらグループ内で提示。それを回しながらさまざまに議論する。模造紙にこれらのカードのほか、議論で出てきたキーワードを付箋紙で貼り付けながら、まとめていき、最後に各グループからの発表。聞き取った内容が書かれたカード、そして参加者の思い、それらがよい化学反応を起こしてくれた。


聞き取り調査という手法を使ったまちづくりは、まだまだ発展途上。でも、その可能性を大いに感じたこの数ヶ月の社会実験だった。