【36】米国シアトルの多彩な地域活動(1)

日本人にはイチローのシアトルマリナーズでおなじみのシアトル市。実はシアトルは、多彩な地域活動が盛んな地としても知られている。それを視察しに一〇月二八日から一一月五日の一〇日間ほどシアトルを訪れた。


私たちが注目した一つはシアトル中に広がるコミュニティ・ガーデン。


その一つピカルド・ファームを訪れた。このピカルド・ファームはシアトルのコミュニティ・ガーデン発祥の地で一九七三年から三七年の歴史をもつ。有数の大規模なコミュニティ・ガーデンで現在二〇〇軒以上が参加しているという。参加者は、年間八時間以上、コミュニティ・ガーデン全体のために何らかの労働をしなければならない(「実際にはみんなそれ以上働いているけどね」)。


平日だが、何人かが畑仕事をしていた。あるおばあさんに話を聞いたら、その人は初期からのメンバーだった。「レタス、ブロッコリー、トマト、豆、パクチョイなどいろいろ植えているわよ。週1~2回通っているわね。夫も亡くしてね、今はこのコミュニティ・ガーデンに通ってくるのが生き甲斐。フードバンクへの寄付が私の主な目的」。フードバンクとは、貧困者向けの食料供給のしくみで、このピカルド・ファームでは、参加者に「火・金・土の朝八時に収穫物を洗って置いておいてください。回収してフードバンクへ渡します」と呼びかけている。


ビルが立ち並ぶ市街地にもコミュニティ・ガーデンがある。ベルタウン・ピーパッチがそれ(シアトルではコミュニティ・ガーデンのことを「ピーパッチ」と呼んでいる)。このベルタウン・パッチは、もともと開発されようとしていた土地を住民たちが市に買い取らせ、そこをコミュニティ・ガーデンにしたもの。「市に払う使用料は年間三五ドル。現在三八人が参加して、野菜づくりや花づくりを行っています。参加者は、夏の水やり、堆肥づくり、草刈りなどそれぞれの役割をもっています。夏には、ときどき、堆肥づくりなどの共同作業のあとパーティを開きます」、とコーディネータ役のクリス・ゴーリーさん。そしてここでも、フードバンクとの連携があった。ガーデン内にフードバンク用の区画があって、そこを担当している参加者が野菜作りを行い、フードバンクのNPOに渡すというやり方だ。


ベルタウンのすぐそばには、昔港湾労働者が使っていた家が三つ残されている。現在その一つがコミュニティ・ガーデン用に使われている。あとの二つは、市の事業で「アート・イン・レジデンス」の一環として芸術家が住んでいる。そういえば、このコミュニティ・ガーデン全体がアートに満ちている。畑の形もおもしろいし、周りの塀には絵が施されている。そんなところだから、散歩に訪れる人も多い。私たちが訪れた間にも、多くの人びとが散歩に来ていた。


コミュニティ・ガーデンの多くは、シアトル市のマッチングファンドという制度を利用して整備事業を行っている。このマッチングファンドこそ、シアトル市の地域活動が盛んな秘密の一つ。一九八九年に始まったマッチングファンドは、市民たちが自らが行いたいと思ったプロジェクトについて、簡単な申請により市から助成金が得られるというもの。

大きなプロジェクトについては市民代表たちが審査する。


マッチングファンドのおかげもあり、コミュニティ・ガーデンは現在シアトル中に七三ヶ所に広がり、全部で二〇五六世帯が参加している。コミュニティ醸成、環境保全、貧困対策、そして公園機能、と多面的な機能を果たしている。