佐藤剛『上を向いて歩こう』

ふと本屋で目にとまり、ちょっと立ち読みして、思わず引き込まれた佐藤剛『上を向いて歩こう』(岩波書店)。近所の本屋に岩波書店の単行本が置かれているのが珍しかったのもある。さっそく買って帰り、一気に読んだ。


言わずとしれた、作曲・中村八大、作詞・永六輔、歌・坂本九の名曲。この歌が誕生する背景、欧米でヒットしたそのプロセス、を謎解きのように追いかける。


筆者のその筆力に僕は感嘆した。しかし、この佐藤剛という人は、プロのライターではない。ザ・ブームやハナレグミなどのプロデュースを手がけた音楽人。そのことにまた驚いた。最近由紀さおりがヨーロッパで売れているという話は聞いていたが、そのプロデューサーがこの佐藤剛氏らしい。


筆者が追求したかった、歌が生まれ、広がっていくプロセス。それにたずさわる個人の来歴、社会的背景、そして当時の国際的な音楽状況、それらを複眼的にとらえながら、「上を向いて歩こう」誕生物語が語られる。


僕はこの本で初めて、「上を向いて歩こう」が本当は哀歌で、それを坂本九がエルビス・プレスリーから学んだビートで明るく歌ったことでヒットをもたらしたことを知った。


音楽を生みだすことに携わってきた筆者が、その原点とも言える「上を向いて歩こう」に向き合い、執念の資料収集、インタビューを繰り返し、それをルポルタージュにまとめた。歌が生まれるとはどういうことか、歌が広がるということはどういうことか、ということについての筆者の思索は徐々に深まっていく。


音楽人による珠玉のルポルタージュの誕生に乾杯。


(参考)

由紀さおり&ピンク・マルティーニ『1969』 プロデューサー 佐藤剛氏インタビューより(http://www.musicman-net.com/focus/2.html