【50】スペイン・干潟の採貝漁業のルール

二月、スペインのガリシア州に行った。そこの研究者や漁業者がおもしろい動きをしている、ということで、視察と研究交流に仲間たちと訪れた(京都にある総合地球環境学研究所の研究プロジェクトです)。


ガリシア州全体が漁業の州で、その中心を担うのは、ヨーロッパ漁業の中心の一つでもあるヴィーゴという町。ちなみにガリシア州の言語は、本来スペイン語ではなく、ガリシア語(ガレゴ語とも。スペイン語よりポルトガル語に近いらしい)の土地で、あちこちにスペイン語と併用してガリシア語が書かれている(どっちがどっちか僕にはさっぱりわかりませんでしたが)。


ヴィーゴ大学の研究者に連れられて、僕らはカンバドスという町の干潟を訪れた。地図で見ると三〇〇ヘクタールくらいありそうな大きな干潟だ。ラムサール条約にも登録されている。そこで僕らが見たのは一〇〇人以上の女性たちがいっせいに貝を採っている姿。


ここで漁協のテクニカル・アシスタントをしているホセ・マリノさんによると、毎月一五日間くらいがこの採貝漁業の日になるらしい。いつそれを行うのかを決めているのはこの地区の漁協(ガンバドス漁協)の採貝部会のリーダーたち。採貝ができるのは、この採貝部会に加盟している人に限られる。現在二〇〇名余り。そしてその人たちは毎月三日間ある部会の共同作業に必ず参加しなければならない。共同作業の九五%以上にちゃんと参加していないと、翌年の採貝には参加できないという。なかなか厳しい。


一九九二年までこの採貝漁業は実質オープンアクセスだった(誰がどれだけ採ってもよかった)、一九九二年に部会ができ、ルールが決められた。


採れた貝は全量漁協を通して売られる。そういうしくみは、日本の漁村のやり方にとても近い。


ところで、僕らに話をしてくれたテクニカル・アシスタントのホセさんは、大学の博士号も持っている。博士論文のテーマは魚と重金属の関係だったという。ガリシア州では、各漁協にこうした専門家が配置されている。彼らの助言のもとで、各漁協は資源管理をしている。助言と言っても、一方向的に助言するのではなく、漁業者たち自身の知識も活用して、一緒に協議しながら決めていくようだ。


視察のあとヴィーゴ大学で開かれた研究会では、ホセさんら、漁協のテクニカル・アシスタントをしている人たちがたくさん集まってくれ、その現状や課題を率直に語ってくれた。その話はとてもおもしろくて、彼ら自身、自分たちの仕事は単に専門家としての仕事だけではないのではないかと考えている。日本で言えば「地域おこし協力隊」のような、いろいろなステークホルダーを結ぶ地域のコーディネータ的な役割を彼ら自身も認識している(あくまで漁業に限るのだが)。


スペインの漁村と日本の漁村の交流もおもしろそうだ。