【55】本はどこへ行くのか

本はどこへ行くのだろう。


最近、電子書籍を読むことが多くなった。iPadで読んでいる。と言っても、まだ電子書籍の点数は多くないので、数で言うと紙媒体で読む方が多い。しかし、本は重たく、また、老眼の身には字が小さい。


実は僕が現在「読んで」いるもののほとんどは「本」ではなく、論文だったり資料だったりで、それらのほとんどはパソコンやiPadで読んでいる。iPadに論文も資料も全部ぶち込んでいれば、いつでもどこでも見ることができる。全部ぶち込むのはなかなか難しいけれど、多く本を読んできた人間はみな、iPadの中に自分の図書館を作りたい、それを持ってどこかに出かけたい、ときっと思うはずだ。


もちろん本の「モノ」としての魅力に替えがたいものがあることは異論なし。装幀とか、本の手触りとか、そういうモノとしての本ももちろん大好きだけれど、僕も含めて多くの読者にとっていちばんはやはり中身。もちろんその中身は、ただ文字が並んでいるという意味での中身ではなく、十分に編集されて美しく(物理的だろうと電子的だろうと)束ねられた作品としての「本」。


ああ、本の消費者って、ややこしいなあ。私たちが対価を払う本の「価値」は実に多面的。


内沼晋太郎さんの『本の逆襲』(朝日出版社、二〇一三年)という本は、自称「ブックコーディネーター」として、下北沢でビールが飲める本屋兼雑貨屋をやったり、本にかかわるイベントをやったりする中で、そういう本の多面性を生かせば、本のビジネスがまだまだ行けることを身を以て実証した本だ。出版業界は確かに斜陽かも知れないけど、読むという行為、さまざまな表現者による文章表現の世界はむしろとっても元気で、それがこの本のタイトル「本の逆襲」の意味。内沼さんが経営する本屋兼雑貨屋ではほぼ毎日作家などを招いてイベントを開いている(まるで「遊」ではないか)。


出版業界の友人たちに叱られながら、しかし便利なのでついアマゾンで買ってしまうのだけれど、内沼さんのお店のようなところだとつい足を運んでしまうだろうなあ。


本の市場規模は書籍のみでほぼ八〇〇〇億円(うち電子書籍の市場規模は約八%らしい)。雑誌を加えると約二兆円。規模のわりに、それにかかわる会社(出版社、印刷会社)は多く、そのほとんどは中小企業。個人経営も多い。その商品はどれもせいぜい一〇〇〇部とか二〇〇〇部という少量多品種の業界だ。それほど大きな規模の業界ではないが、しかし一方思い入れのある人、一家言ある人が多いという意味ではプロ野球以上かもしれない業界でもある。


本を読むのも面白いけど、本について考えるのもおもしろいぞ。