【56】奄美の「遺産」

昨年一二月、奄美大島を初めて訪れた。


一二月八日、奄美市仲間集落(住用[ふりがな/すみよう]町)の公民館で、集まった六人のお年寄り(上は八六歳から下は七二歳)を囲んで、聞き取りが始まった。地元のNPO法人すみようヤムラランド(「ヤムラランド」は「やめられない」の意味)と鹿児島大学の岡野隆宏さんたちが連携して、地域の人びとと自然との関係を記録しようという会に、僕も聞き手として参加させてもらった。


「清い川と書いて「キョンコ」。小さい子どもたちは「ピョンコ」と呼んでます」

「キョンコ」とは、集落のすぐ横を流れる川の、少し深くなった部分の名称だ。

「小さいころは、大きい石からよく飛び込んだものです。ツワブキやタケノコのあく抜きもキョンコでやりました。籠に入れて浸しておいて、一晩置くとあくが抜けるのです。流れないようにまわりに石を置いてね」


一方、集落の前を流れる大きい川(住用川)では、アユ、カニ、エビなど、さまざまなものが獲れた。

「カニは、アネク(籠)に餌を入れて獲ります。川を仕切って真ん中に竹の籠を編んで置いて、みんなそこに入るしかない形にして獲っていました。しかし、今は、減少したリュウキュウアユの保全のために、それはしないで、ただ籠を川の底に沈めておいて獲ります。住用川のカニ(モクズガニ)は、入会権があるから、入札があります。九月九日に開票します。川を場所で区切って、一番(の区域)は誰々がいくら、二番は誰々がいくら、と五番まであります。入札したお金が部落のお金になります。今年の入札は一万円くらい。以前はもっと高かった」


聞いているうちにお年寄りたちの話はどんどん広がった。小動物の話、魚の話、お祭りの話、家畜の鳴き声の話、昔いくつもあった水車の話、サトウキビの話、そして奄美で「ケンムン」と呼ばれる妖怪の話。僕は話の豊富さに圧倒された。


奄美では世界遺産の話が進んでいる(奄美群島として二年後に世界自然遺産登録を目指している)。しかし、奄美がおもしろいのは、世界遺産にさきがけて、ローカル認証である「奄美遺産」が運動として進められてきたことだ。地域の人たちが大事に思っている「遺産」を自分たちで提案し、それを奄美遺産認定委員会が認定する、というプロセスを踏む。遺跡、建物、口承文化、料理、植物、祭りなど、何でもよい。誰でも提案できる。大事なことは、トップダウンでこれが「遺産」だと決めてしまうのではなく、自分たちで決めるということだ。提案の際の提案書には「その遺産が大事だと思う気持ち」「その遺産について提案者がどういう活動をするか」を書くことになっている。


これはいいモデルになるなあ。