【61】オーストラリアのソロモン人たち

エディに会いに、オーストラリアへ行った。ビクトリア州の北の端、オーストラリア全体の中では右の下の方の内陸、ミルデューラという町にエディはいた。

 

エディは僕がソロモン諸島でずっとお世話になっている友人。五年ほど前からオーストラリアに出稼ぎに来ている。 

 

エディの仕事場はブドウ園。毎日毎日、ブドウの木を一つずつ点検して、うまく育っていなければ接ぎ木をやりなおしたり、よく育っていれば伸びてきた蔦を横に這わせたロープにくくりつけたり、という地味な作業。

 

「オーストラリアに来た当初は、仕事がきついと感じた。ソロモン人は何時から何時という定時の仕事に慣れていないからね」。それも今ではすっかり慣れてしまった。エディが働く農場は大きな規模のブドウ園で、ドイツ系オーストラリア人の農場主が経営している(エディと農場主は地元の教会で出会って、雇ってもらった)。十四名ほどの労働者がいて、ソロモン人はエディ一人だが、他にドイツからのワーキングホリデーの若者もいる。

 

月曜日から金曜日までの労働なので、金曜の夜は、自分でビールを買ってきて、それを飲みながら、静かに休む。翌土曜日は昼まで寝ている、という。

 

ソロモン人たちがオーストラリアでこんなに働くようになったのはこの一〇年くらい。正確な数字はわからないが、オーストラリア全体で数百人はいるものと推測される。多いのはブリスベン周辺で、ここミルデューラはそんなに多くない。主な働き場所は、果樹や野菜の農場だが、工場で働く者もいる。

 

たいていは手配師が仲介していて、ソロモン人はそれと連絡をとってからオーストラリアに来る。二年くらいで帰る者が多いが、エディみたいに五年もいる者もいるし、オーストラリアにすっかり根を下ろしてしまった者もいる。

 

エディは少し長くいすぎたのでそろそろ帰ろうと思っている。賃金は悪くなく、貯めたお金は、ときどき送金しながら、自分の家を新築するお金に充てている。

 

月に何度かは、近くに住むソロモン人たちと会う。こちらで知り合った友人も多い。フェイスブックは、彼らにとって絶好のコミュニケーション・ツールになっていて、近隣のソロモン人、そして故国の家族や友人たちと、毎日のようにやりとりをしている(ソロモン諸島国内でも携帯電話が急速に普及している)。

 

 

僕がソロモンに行き始めたころには、こんな事態は想像もできなかった。でもオーストラリアに多くの人が出稼ぎに来ても、携帯電話が普及しても、ソロモン社会はあまり変わらないような気もする。そこがソロモン諸島の面白いところでもある。