【3】島の幸福な時間

沖縄の池間島を訪れた。5年ぶりだ。

池間島は、宮古島の北に位置する小さな島だ。連載の初回に書いたように、僕はこの島に10年間、断続的に通い、いろいろなことを教えてもらった。しばらく行っていなかった間に、親しくしていたおじいさんの一人が亡くなった。その霊前に手を合わせなければ、と思っていたし、そろそろみなさんに挨拶もしなければと考え、島のお祭りに合わせて、再訪した。

ヒャーリクズというお祭りは、明治20年ごろ糸満漁民(糸満は沖縄の著名な漁業地域)から伝えられて始まった行事とされる。旧暦5月4日に行われるので、今年は6月10日。

船が1隻、島内各団体の代表者たちが乗って沖に出、オハルズと呼ばれる島のウタキ(神社)へ向かってお祈りする「ウガンバーリー」の儀式から、祭りは始まる。

お祭りのメインは、ハーリー競漕(ボートレース)だ。10人ほどが乗ったボートが3隻並んで、500メートルほど沖にある旗を一周してくる。地区別、青年団の地区別、職場別、と全部で10レースほどが行われるのだが、漕ぎ手が足りず、同じ人が何度も参加する。「センセイも漕ぎなさい」と言われ、僕も2本のレースに参加した。1本め、最下位。2本め、2位。1位への道は険しいが、ずぶ濡れになりながらみんなで力を合わせて漕ぐのは気持ちがよい。

女性たちの2つのチームも、高校生チームとのレースに参戦した。高校生チームは、出だし好調で女性チームを引き離したが、後半息切れし、結局は最下位に終わった。

ボートには負けたけれど、高校生たちは、お祭り全体の裏方として大活躍した。ボートレースでは、ボートの配置を担当し、午後からの子ども相撲では子どもたちのサポート役に、と大忙しだった。高校生たちが、地域の活動に参加して活躍しているのを見るのは、なんだかとってもうれしい。しかし、その数、10人足らず。それが、高齢化が進んでいるこの島の現実だ。

子ども相撲は、砂浜に急造した土俵で、小中学生が個人戦・団体戦で争う。子どもたちはやはり数が少なく、同じ子どもが何度も登場する。女の子と男の子の試合もある。女の子が男の子を負かして、島びとたちはやんやの喝采を送る(ホント、女の子たちは強かった)。拡声器を使って実況中継をするアナウンサー役の島民は、子ども全員の名前を知っていて、「○ちゃん、負けるな」「○くん、反撃に出た!」と、会場を盛り上げる。

昔かつお節で栄えた島は、今、年寄り中心の島になった。「子どもの数がもっと減って、もし小中学校が閉校になったら、地域は終わりだ」、と那覇から久しぶりに島に戻ってきた人は心配して語る。でも、祭りに参加した僕は、この島がまだ幸せな時間をもてていることになんだかホッとした。

さっぽろ自由学校「遊」『ゆうひろば』90号(2005年7月号)