シアトル市民活動視察7日目(最終日)

シアトル視察の7日目(最終日)。


■El Centro de la Raza


El Centro de la Razaを訪れる。


El Centro de la Razaというのは、「すべての民族の人びとのためのセンター(英語では、The Center for People of All Races)の意味で、主にヒスパニックの人たちのためのさまざまなサービスを提供している。今日は、月に一回このセンターの公開日で、職員によるセンター内ツアーが提供されているのに参加させてもらった。ちょうどメキシコなどで行われている「死者の日」祭りが館内でも行われていて、このセンターのリーダーでつい2ヶ月ほど前に亡くなったRoberto Maestas氏を始め、さまざまな人がまつられていた。


ホームページに"El Centro de la Raza is a voice and a hub for Seattle and Martin Luther King, Jr."とあるように、このセンターはもともと運動から出発している。センターの建物もともと古い学校だったが、それが使われなくなった1972年、活動家たちが平和的に占拠したことに始まる。Belizさんがあとで語ってくれたところによると、当時は先住民族を含む各民族、アフリカ系の活動リーダーたちがお互いに助け合っているときで、その中でも、すぐれたリーダーのいたグループがこうした占拠に占領した。それは1960年代からの学生運動、ベトナム反戦の流れを汲んでいた。


この占拠はのちにシアトル市長によって公式に認められ、El Centro de la Razaの活動もさらに進展した。現在El Centro de la Razaは多くの寄付、ボランティアに支えられ、連邦政府や州政府、市当局からもお金を引き出し(財政全体の中での比率は現在50%)、保育、進学支援、青年教育、住宅購入支援など、ヒスパニックを中心とする低所得者層向けのさまざまなサービスを行っている。雑然とした雰囲気、住民への多彩なサービス、社会運動との関連など、発展途上国のNGOに似た雰囲気を感じた。


■Department of Neighborhoodの元ディレクターJim Diersさん


そもそも私たちがシアトルに関心をもったのは、Department of Neighborhoodの元ディレクターJim Diersが書いたNeighbor Power(http://www.neighborpower.org/)という本だった。もともとコミュニティ・オーガナイザーだったJim Diersさんが1988年、当時の市長によってDepartment of Neighborhoodの初代ディレクターに任命され、その後Matching Fundという革新的な方法を導入し、ボトムアップのまちづくりを主導した。


そのJim Diersさんと、シアトル市内にあるワシントン大学で話をする機会を得、また、彼が大学生たちに行った特別講義を聞くことができた。


Jim Diersさんに聞きたかったことはいくつかあった。もともとシアトルは、先のEl Centro de la Razaを始め、社会運動が盛んだった。それとMatching Fund導入後とは何かが変わったのか。Jimさんは「そう。もともと盛んだった。しかしMatching Fundの導入で、reactiveな活動からproactiveな活動になり、さらにより多くの住民が活動に参加するようになった。さらに新しいグループも生まれ、何より、ボトムアップの活動が主流になった」。2001年にJimさんが当時当選した新しい市長によって解任されてから、何か変わったか。「Matching Fundなどの制度はそのままだが、一部の制度がなくなり、本当のボトムアップでなくなった側面がある」。


■ベリズ・ブラザーさん


今回の私たち(埼玉大学の藤林泰さんと宮内)のシアトル視察は、ほぼすべてシアトル在住のビジュアル・アーティストであるベリズ・ブラザーさんのアレンジによった。日本で言うと全共闘世代に当たるベリズ・ブラザーさんは、社会的な関心も強く、自身の仕事であるアートの世界でもコミュニティとの関係を重視したワークショップを開くなど、多彩な活動をしている。私たちは、この1週間、ベリズさんとの議論を楽しんだ。訪問先では、ベリズさんもインタビューに積極的に参加してきた。


彼女がこの1週間アレンジしてくれたのは、貧困対策、環境、マイノリティ支援など、多岐に亘った。コミュニティ活動という言葉で安易に想像されるようなものよりも、むしろ社会問題と格闘するグループが中心だった。「シアトルで現在盛んなコミュニティ活動はシアトルの社会運動の歴史とつながっていますか?」という質問にベリズさんは「そうあってほしい」と答えてくれた。60歳になる彼女の最近の関心は「agingのコンセプトを変えること。サービスを受ける高齢者ではなく、社会的な活動をする高齢者のモデルをこれから作っていきたい」と。