【32】雲南と資本主義

昨年一一月、中国雲南省を訪れた。あこがれの雲南省だ。民族植物学者中尾佐助が唱えた照葉樹林文化圏の中核でもあり、さまざまな農耕のふるさと、雲南省。


しかし、国際学会のあった雲南省昆明市は、そんなあこがれの雲南省イメージを見事に壊してくれる人口六〇〇万の巨大都市だった。ラオス、タイ、ミャンマーを含む東南アジア内陸部に中国元経済圏を築いているその中心の一つが昆明。僕は町で三度乞食に出会った。乞食がいたのは、高級デパートのすぐ近く。僕でも手が出せないような高額商品が並ぶ高級デパートと乞食という対比。むきだしの資本主義。


学会のあとのエクスカーション(視察)は、飛行機で雲南省最南端のシーサンパンナ(西双版納)タイ族自治州に飛んだ。タイ族のみならず、さまざまな少数民族(と言っても中国のことだから決して少数ではない)の住む州。そこで、いくつかの村や植物園などを訪れたのだが、いちばんびっくりしたのは、バスで走行中に見た山々。右も左も山の中腹が延々ゴム園になっているのだった。この風景はいつか見た風景。マレーシアやインドネシアでアブラヤシプランテーションが広がる風景に似ているのだ。延々と続くゴム園のほとんどは新しいゴム園で、まだゴムの木も伸びきっていない。


ゴムは車のタイヤに使われる。こんなにどこもかしこもゴム園にして供給過剰にならないだろうか、と思ったが、現在中国国内での自動車生産は急増しており、タイヤ用のゴムはむしろ輸入しているという。となれば、いくらゴム園を作ってもマーケットはあるということか。


ゴム園のないところでは、今度は茶畑が延々と続く。ここはプーアル茶で有名なところである。その原料をプランテーション形式で大量生産している。


そんな中、昆明植物研究所の裴盛基(ペイ・シェンジ)博士が、「茶の森」というものに連れていってくれた。「茶の森」? なんだろう、と思ってついていったら、そこは、森の中の茶園だった。プランテーション型の茶園ではなく、森の中に茶を植えている。裴博士曰く、「このやり方がもともとのこの地域の茶生産のやり方です。生産性はプランテーション型の茶園に比べてずいぶん低いですが、品質がよいので値段は五~一〇倍します。ですから十分やっていけるのです」。裴博士は、こういう「茶の森」こそが持続可能な農業として大事だと考えている。研究者らが地域住民とこうした持続的な農業を進める協働も始まっているらしい。「茶の森」を歩いた最後に東屋があって、そこでお茶をいただいた。たいへん美味。村の女性が茶(円盤状に固めている)を売っているので一つ買った。こういうエコツアーもよいだろう。


それにしても、昆明の都会の姿、そしてゴム園やプランテーション型の茶畑が続く姿との対比では、こういう「茶の森」はいかにも小さく見える。


雲南はどこへ行くのか。