【8】調査者の使われ方

愛知に行ってきた。森林保全の先進的な取り組みを見ることが目的だった。


矢作川、庄内川という愛知の2つの大きな川の上流で、「森の健康診断」という試みが今年行われた。長く手入れがなされていない人工林の状況を市民の手で把握しようというものだ。森林ボランティアの経験がある市民がリーダーになり、4~5名のグループが、あらかじめ定められた数カ所ずつポイントで人工林の現況について調査する。素人がお金をかけずに、しかも楽しくできるように工夫された調査だった。それぞれ約200名の市民の参加を得て、かなり広範囲な森の現状が把握でき、今後の政策のためのデータとしても貴重なものが集まった。


(「森の健康診断」の詳しくは、http://www.eic.or.jp/library/pickup/pu051201.html 参照)


ありそうでなかったこの画期的な取り組みが実現するには、何人かのキーパーソンが存在した。そのキーパーソンたちに名古屋の某所に集まっていただき、一度に話を聞く機会に恵まれた。おもしろいことに、どの人も長い市民運動の経験を持っていた。インタビューの最中、彼らは、ぼくらが聞いているそばから、自分たち自身で運動をふりかえり、ああだこうだと議論を始めた。彼らは今、流域から海を含めた広いエリアでの共同の取り組みを模索しているのだが、その話をしているときに「“いっせい行動”の経験が大きかったね」という話が出た。“いっせい行動”? 僕はその名前を知らなかった。正式名称は「健康と環境を守れ!愛知の住民いっせい行動」。1976年から、毎年1回、さまざまな環境問題に取り組む市民が、県知事や市長たちと一度に会い、要請項目を出し、その場で回答を得るというもので、今も続いている。新幹線公害も藤前干潟も愛知万博もこの「いっせい行動」で取り上げられた。

(「いっせい行動」の記録は『焔の群像』という本にまとめられた。愛知県保険医協会扱い tel 052-832-1345)


庄内川上流の岐阜県恵那市でも、「森の健康診断」にたずさわった人たち10余名に集まっていただき、僕らのインタビューが始まったが、それは、彼ら自身の「ふりかえり」の会ともなった。「森の健康診断」の仕掛け人である丹羽健司さんが、こうした僕らのインタビューをお膳立てしてくれたのだが、丹羽さんは、ぼくら「研究者」の訪問をそうやってうまく“使った”のだった。外から調査に入る、というのは、いつも何かしら後ろめたいものだが、こういう使われ方は悪くない。